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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)2613号 判決 1979年5月31日

原告(反訴被告)

安井和子

ほか一名

被告(反訴原告)

坂口元晴

ほか一名

主文

一  原告(反訴被告)三名の被告(反訴原告)坂口元晴および被告五條一子に対する本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告(反訴被告)三名はそれぞれ被告(反訴原告)坂口元晴に対し金一一六万六、六六七円およびちう金一〇六万六、六六七円に対する昭和五一年一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)坂口元晴の原告(反訴被告)三名に対するその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを三分し、その二を原告(反訴被告)三名の、その余を被告(反訴原告)坂口元晴の各負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(本訴について)

一  原告ら(反訴被告ら、以下原告らという。)

「(一) 被告坂口元晴(反訴原告、以下被告坂口という。)および被告五條一子は各自、原告安井和子、同安井浩之、同安井佐多子に対しそれぞれ金四四〇万円およびうち金四〇〇万円に対する昭和五一年一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 (二) 訴訟費用は被告両名の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

主文第一項と同旨および訴訟費用は原告らの負担とする旨の判決。

(反訴について)

三 被告坂口

「(一) 原告三名は各自、被告坂口に対し金四四九万〇、八八一円およびうち金四一六万七、五四七円に対する昭和五一年一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 (二) 訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

四 原告ら

「(一) 被告坂口の反訴請求を棄却する。 (二) 訴訟費用は同被告の負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  原告らの請求原因

(一) 事故の発生

昭和五一年一月二四日午後六時五分ころ大阪府柏原市国分東条町三〇番地先国道二五号線路上において東(奈良方面)から西(大阪方面)に向かつて進行していた訴外安井利一(以下、利一という。)運転の普通乗用自動車(大阪五六ゆ三七二二号、以下原告車という。)と西から東に向かつて進行していた被告坂口運転の普通乗用自動車(奈五五す三四〇〇号、以下被告車という。)とが衝突した。

(二) 被告らの責任

被告車は被告五條所有の車両であり、同被告は同車を被告坂口に貸与していたものであるので被告両名は同車を共同して自己のために本件事故当時運行の用に供していた者であるとともに、被告坂口については、本件事故現場は同車の進行方向に向かつて左側は大和川で、右側は山で切り立つた崖になつており、右曲りのカーブになつて対向車相互の見通しはかなり悪い幅員約七メートルの山間の道路であるから、同被告は前方注視を厳にして対向車の動静に十分注意してこれと接触しないよう運転する注意義務があるのに漫然とこれを怠り前方を十分注視せず、しかもセンターライン寄りに進行した過失により同ライン付近で被告車を原告車に正面衝突させたものである。

(三) 損害

1 利一の受傷および死亡

同人は右事故により頭部を強打し頭蓋挫傷の傷害を被り、右事故後間もなく同現場で死亡した。

2 同人と原告らの身分関係

原告佐多子は利一の妻であり、原告和子および浩之はいずれも同夫婦間の実子である。

3 損害額

(1) 利一の将来の逸失利益 三、八四一万三、八五九円

同人は昭和一五年一二月七日生まれの健康であつた男子でマロン株式会社(資本金一億二、五〇〇円、従業員二五〇人の塩化ビニールレザー、シート、フイルムおよび合成皮革の製造販売を業とする会社)の製造二部一課の係長であり、昭和五〇年に支給を受けた給与の総額は二九一万八、〇五五円であつた。同人はもし本件事故に会わなければ六七歳まで向後三二年稼働し、その間毎年前記の年収額の収入があると推定されるので、同人の生活費控除を三〇%とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人の将来の逸失利益の死亡時の現価は標記の金額となり、同人は同額の損害を被つたといえる。

算式二、九一八、〇五五×(一-〇・三)×一八・八〇六

(2) 慰藉料 一、〇〇〇万円(原告ら各三三三万三三三三円)

本件事故の態様、利一の受傷および死亡、同人と原告らの身分関係その他諸般の事情をしん酌すると右事故により原告らが被つた精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額となる。

(3) 葬儀費用 二一万三、二五〇円(原告ら各七万一、〇八三円)

原告らは利一の葬儀費用として株式会社公益社ほかに合計して標記の金員を支払い、同額の損害を被つた。

(4) 弁護士費用 一二〇万円(原告ら各四〇万円)

4 原告らは前項の(1)の損害についての利一の被告らに対する損害賠償権を各三分の一宛の割合で相続して取得したので、(2)ないし(4)の各原告の同債権額と合算すると各原告の同債権額はそれぞれ一、六六〇万九、〇三五円となる。

(四) 損害の填補

原告らは被告車加入の自賠責保険から各四〇〇万円合計一、二〇〇万円の支払を受けた。

(五) よつて、原告らの各残債権額は一、二六〇万九、〇三五円となるので、原告らはその内金として、被告両名に対し各自、各原告に対しそれぞれ金四四〇万円および弁護士費用を除く金四〇〇万円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五一年一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

(一) 請求原因(一)は認める。同(二)のうち、被告車は被告五條所有の車両であり、同被告は同車を被告坂口に貸与していたこと、本件事故現場が原告ら主張のとおりの道路状況の見通しのかなり悪い山間の道路であることは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)の1、2は認める、3の(1)ないし(3)は不知、(4)および4は否認する。同(四)は認める。同(五)は争う。

(二) 本件事故は利一が見通しの悪い、湾曲した本件道路を指定最高速度五〇キロメートル毎時を超える七、八〇キロメートル毎時の速度で原告車を運転しカーブを曲り切れずに、被告車の直前にセンターラインを超えて山かげから飛び出して来たものであり、被告坂口は右の最高速度内の速度で前方を十分注視して被告車を運転していたものであるが、客観的にみても同被告に両車の衝突回避措置を採ることを要求するのは不可能である。したがつて、同被告にはなんら被告車運転上の過失はなく、右事故は利一の一方的な原告車運転上の過失により発生したものであるので、被告両名には原告らに対する損害賠償債務はない。

(反訴について)

三 被告坂口の請求原因

(一)  原告らの本訴請求原因(一)に主張の事故により、同被告は後記の傷害を被り、右事故は前記二の(二)の被告らの答弁で主張したとおり原告車の運転者利一の一方的な過失により発生したものである。

(二)  同被告の被つた損害

1 受傷 頭部挫傷、脳内出血の疑い、顔面挫創および擦過創、頸椎捻挫、口唇および口内挫創、歯損傷、右脛骨亀裂骨折、右腓骨骨頭骨折など

2 治療経過

(1) 入院

昭和五一年一月二四日から同年二月一四日まで手島外科病院に(二二日間)

(2) 通院

同月二七日から同年一二月二〇日まで歯槽整形および義歯装着のために谷和歯科医院に(うち実治療回数一九日)

3 後遺症

現在上の歯一三本の入れ歯をしているが、右事故により上の歯一五本を失い、下の歯二本がかけたので、一四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの。(自賠法施行令別表後遺障害別等級表第一〇級該当)

4 損害額

(1) 後遺症に基づく逸失利益 九四一万一、六四三円

同被告は昭和二二年七月九日生まれの健康であつた男子で本件事故当時財団法人大阪市交通局協力会天王子定期券発売所に勤務し、地下鉄の定期券発売の業務に従事し、昭和五〇年度の年収額は一六三万六、五二三円であつたので、前記の後遺症の部位、程度等に照らすと、その症状固定時である二八歳から六七歳までの三九年間労働能力の二七%を喪失し、それに副う減収があると推定されるので前記の年収を基礎とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人のその間の逸失利益の症状固定時の現価は標記の金額となり、同人は同額の損害を被つたといえる。

算式 一、六三六、五二三×〇・二七×二一・三〇

(2) 慰藉料 三〇九万一、〇〇〇円

本件事故の態様、同被告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情をしん酌すると同人が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

(3) 弁護士費用 九七万円

(三)  よつて、同被告は利一に対し一、三四七万二、六四三円の損害賠償権を有するところ、同人の死亡により原告三名(原告佐多子は利一の妻、その余の原告二名は同夫婦間の実子)は利一の前記債務を各三分の一宛の割合で相続して承継負担したので、同被告は原告三名に対しそれぞれ同債務金四四九万〇、八八一円およびうち弁護士費用を除く金四一六万七、五四七円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五一年一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四 原告らの答弁

(一)  被告坂口の請求原因(一)のうち本件事故の発生の主張は認めるが、同被告が右事故により傷害を被つたことは不知、右事故が利一の一方的な過失により発生したとの主張は争う。同(二)は不知。同(三)のうち利一と原告らの身分関係は認めるが、その余は争う。

(二)  右事故発生につき同被告に被告車運転上の過失があることは本訴請求原因(二)に主張したとおりであるので、これをここに援用し、仮に原告らに同被告に対する損害賠償債務があるとしても大幅な過失相殺による減額がなされるべき旨主張する。

第三証拠関係〔略〕

理由

(本訴について)

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  次に同(二)の事実について検討するに、被告車は被告五條一子の所有であり、本件事故当時同被告は同車を被告坂口に貸与していたことは当事者間に争いがない。右事実によれば、被告五條は特段の反証も挙げないので、右事故当時同車につき自賠法三条本文所定の運行供用者であると推定されるが、被告坂口については同被告が被告五條から同車を借り受けた日時、その貸借契約の内容、被告坂口の同車の使用および管理状況などがはつきりしないので、果して同被告が同車につき運行支配および運行利益を有していたかどうか釈然としないので、同被告が被告五條と共同して運行供用者であつた旨の原告らの主張はこれを採用するのに躊躇せざるをえない。

しかし、原告らは被告坂口に対しては予備的に不法行為者責任を主張し、被告らは右事故は原告車の運転者である訴外安井利一の一方的な過失により発生したものであり、被告坂口にはなんら過失がないので、被告らは損害賠償責任がないと主張するので、以下右事故発生の状況についてみてみる。

(一)  請求原因(二)のうち、本件事故現場は被告車の進行方向(東行)に向かつて左(北)側は大和川で、右(南)側は山で切り立つた崖になつており、右曲りのカーブになつて対向車相互の見通しはかなり悪い幅員約七メートルの山間の道路であること、道路中央にはセンターラインが引かれていることは当事者間に争いがない。

(二)  さらに、成立に争いがない乙第二、三号証、検乙第一ないし一五号証、証人岩本正教(一部)、上平二郎、朴広録の各証言および被告坂口元晴本人尋問の結果の一部を総合すると次の事実を認めることができ、前掲岩本証言および同被告本人尋問の結果のうち右認定に反する各部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。

1 本件事故現場は、大和川に掛かつている亀の瀬橋南詰から西方に約七〇メートルの地点で、カーブの度合はかなりきつく、その始点から約二〇メートル西方の地点であり、右現場付近にはカーブミラーの設置はないが、数十メートルの見通しは効くこと。本件道路は歩車道の区分はなく、山側には約〇・六メートル、川側には約〇・四メートルの路側帯が設置され、川に沿つてガードレールが設けられ、車道は片側約三・五メートルずつの二車線で、勾配はほぼ平坦であり、最高速度は公安委員会により五〇キロメートル毎時に制限されていること。車両の通行量は東行、西行を含めて、当時で一分間に十数台で、特に西行車両は少なかつたこと。

天候は晴天であり、路面は乾燥していたこと。

2 安井利一は同僚三人を同乗させて原告車を運転し、本件道路を東から西に向かつて進行し、大和郡山市にある勤務先のマロン株式会社工場から東大和市の自宅に帰宅中であつたが、本件事故現場付近では前記の指定最高速度をかなり超えて進行していたため、カーブを十分曲り切れず、センターラインを約〇・九メートル超えて対向車線上に原告車の右前部をはみ出たせて進出し、その右前部が被告車の右前部と衝突したこと。利一は事前に同車の接近に気付いていたかどうかは不明であるが、なんらの衝突回避措置は採つていないこと。

3 他方、被告坂口は友人二人を同乗させて、被告車を運転し、西から東に向かつて約五〇キロメートル毎時の速度で同道路左(北)側車線中央をややセンターライン寄りに進行し、右前方約三五メートルのカーブの始点辺りにかなりの速度で接近して来る原告車に気付き、相互の距離が二〇メートル位に至つたときには同車がセンターラインを超える危険を察知したが、ほぼそのまま自車の車線に沿つて減速措置も施さずに進行し、右前方約一一メートルで原告車の右前部がセンターラインを超えるのに気付いたが、なんらの回避措置も採らずに両車は前認定のとおり衝突したこと。

(三)  前記の事実によれば、本件事故はかなりカーブの度合のきつい見通しの悪い道路で、高速度で進行したためカーブを十分曲り切れずに原告車の右前部をセンターラインを超えて対向車線上に進出させた利一の同車運転上の過失により発生したことはいうまでもないが、被告坂口にも前記のような状況の道路を最高速度のままで進行し、原告車を発見してからもなんら減速措置および被告車を自車線上の左側にふくらんで走行させるハンドル操作を採つておらず、もしこのような措置を採つていれば、本件事故は回避しえたか、少くとも双方の被害の程度は軽減できたと認められるので、同被告にも右事故発生の原因として寄与した注意義務違反があるといえ、右事故は双方の過失が競合して発生したものであり、その寄与の割合は利一の過失を八とすれば、同被告のそれは二とするのが相当であると思料される。

(四)  そうしてみると、被告五條は自賠法三条本文により被告車の運行供用者として、被告坂口は民法七〇九条により不法行為者として、原告らに対し前記の双方の過失割合などをしん酌して過失相殺による減額をした限度で本件事故により発生した損害を賠償する義務があり、被告両名の右各債務は不真正連帯債務であるといえる。

三  そこで、右事故により発生した損害について検討する。

(一)  請求原因(三)の1、2の事実は当事者間に争いがない。

(二)  右事実を前提にして、損害額の明細についてみてみる。

1 利一の将来の逸失利益

成立に争いがない甲第二号証、原告安井佐多子本人尋問の結果により成立を認めうる同第四号証の一、証人立入清司、岩本正教の各証言および同原告本人尋問の結果によれば利一は原告ら主張の生年月日の健康であつた男子でその主張の会社にその主張のとおり勤務し、昭和五〇年に同会社から支給を受けた給与が二九一万八、〇五五円であることが認められ、簡易生命表によれば利一の平均余命は三九・三四年であり、もし本件事故に会わなければ六七歳まで向後三二年間稼働しうるものと推定されるので、前記の年収を基礎とし、同人の生活費控除を三〇%とし、年五分の割合による中間利息を控除する年別ホフマン計算法により算出した同人の標記の損害の死亡時の現価は三、八四一万三、八五九円となり、同人は同額の損害を被つたといえる。

算式二、九一八、〇五五×〇・七×一八・八〇六〇

2 慰藉料

本件事故の態様、利一の受傷および死亡、同人と原告らの身分関係、利一が妻やまだ幼い実子二人を扶養すべき一家の支柱であつたことその他諸般の事情をしん酌すると右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は利一につき三〇〇万円、原告三名固有分はそれぞれ三〇〇万円と認めるのが相当である。

3 葬儀費用その他

原告佐多子本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証の一、二、第六ないし八号証および右本人尋問の結果によれば、利一が本件事故直後収容された藤井寺市所在の坂本外科病院から原告ら方宅までの遺体回送費、利一の葬儀費用に二一万三、二五〇円を要し、右費用は原告佐多子が葬儀主宰者として株式会社公益社その他の関係者に支払つて、同原告は同額の損害を被つたことが認められる。

(三)  そうすると、利一の損害額は四、一四一万三、八五九円、原告佐多子のそれは三二一万三、二五〇円原告安井和子および同安井浩之のそれはそれぞれ三〇〇万円となる。

四  前記の各人の損害額につき前記二の(三)に説示の利一と被告坂口との過失割合などをしん酌して過失相殺しその八〇%を減額した金額が各人の被告らに対する損害賠償債権額となるが、利一の同債権については原告らは各三分の一ずつの割合で相続により承継取得したので、結局同債権額は原告佐多子につき三四〇万三、五七四円、その余の原告二名につきそれぞれ三三六万〇、九二四円となる。しかし、原告らがそれぞれ四〇〇万円ずつ被告車加入の自賠責保険から支払を受けたことは当事者間に争いがないので、原告らの被告らに対する同債権はすべて弁済により消滅しているといえるので、弁護士費用の請求も含めて原告らの被告らに対する本訴各請求はすべて理由がなく棄却を免れないというべきである。

(反訴について)

五 本件事故の発生は当事者間に争いがなく、本訴請求において判断したとおり、前認定の状況のとおり右事故は発生したものであるから、右事故は利一と被告坂口の過失が競合して発生したものであり、双方の過失の寄与の割合は前説示のとおり、利一の過失を八とすれば、同被告のそれは二とするのが相当であると思料されるので、利一は同被告に対し、民法七〇九条により不法行為者として同被告が被つた損害につき双方の過失割合などをしん酌して過失相殺による減額をした限度で賠償すべき債務があるといえる。

六 そこで、右事故により同被告が被つた損害につき検討する。

(一)  成立に争いがない乙第四号証の一、二、第五号証および同被告本人尋問の結果によれば同被告は本件事故により反訴請求原因(二)の1ないし3に主張のとおり受傷し、その治療経過を経たが、その主張の後遺症が残存し、その症状は谷和歯科医院での治療を一応終つた昭和五一年一二月二〇日ころ固定したと認められ、右後遺症の程度は自賠法施行令別表後遺障害別等級表第一〇級に相当するものといえる。

(二)  右事実を前提として損害額の明細についてみてみる。

1  後遺症に基づく逸失利益

前掲乙第四号証の一および同被告本人尋問の結果によれば同被告はその主張の生年月日の健康であつた男子で、その主張の財団法人にその主張の職務に従事して勤務している者であるが、本件事故により事故日の翌日である同年一月二五日から同年二月二八日までは勤務を休んだが、その間の給与は出勤したのと変りなく支給を受け、その後は平常どおり勤務し、格別の減収はなく、後遺症としては前認定の歯科の補綴だけで頭痛、頸部痛、足の疼痛などの神経症状はなく、歯についても人と話をするとき入れ歯がはずれはしないか気になるだけで、言語障害機能もなく歯科の補綴は同被告の労働能力に影響を与えていないことが認められるので、その余の判断をするまでもなく標記の損害はこれを肯認することができない。

2  慰藉料

本件事故の態様、同被告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度、同人は歯科補綴により固いものがそしやくできず日常生活に支障を来たしていることその他諸般の事情をしん酌すると同被告が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は四〇〇万円が相当であると思料される。

七 よつて、同被告の損害額は四〇〇万円であるので、これにつき前記五(二の(三))に説示の利一と同被告との過失割合などをしん酌して過失相殺し、その二〇%を減額した三二〇万円が同被告の利一に対する損害賠償債権額であるところ、利一は右事故後間もなく死亡し、同被告主張のとおり原告らが利一の妻子であることは当事者間に争いがないので、原告らはそれぞれ三分の一ずつの割合で分割して利一の前記債務を承継負担したといえるので、原告らの同被告に対する各同債権額はそれぞれ一〇六万六、六六七円となり、本件事案の内容、訴訟経過、その難易度、前記認容額などを勘案すると弁護士費用は各原告に対し一〇万円ずつと認めるのが相当である。

八 したがつて、原告三名はそれぞれ同被告に対し、前記債務額および弁護士費用合計金一一六万六、六六七円およびうち弁護士費用を除く金一〇六万六、六六七円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五一年一月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるといえ、同被告の原告らに対する反訴請求は右の限度で理由があるので正当として認容するが、その余の同請求は理由がないので棄却を免れないというべきである。

(結論)

九 以上説示の次第で、原告三名の被告両名に対する本訴請求はすべて理由がないので失当として棄却し、被告坂口の原告三名に対する反訴請求は前項記載の限度で正当として認容し、その余の同請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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